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なのフェイなのss

初秋の祭りを彩る二人

 ←当ブログ管理人。星屑の空です。 

 こんばんは、星屑の空です。
 とりあえず何か更新はしないとなと思い、フォルダを漁っていたら懐かしい作品が出てきたので投下に踏み切りました。たぶんここじゃ上げてない作品ですね。今から五年前(そんだけの年月が経っていたことにやや悲しくなりましたが)に参加したリリマジの際に作ったコピー本です。時期が九月だが十月だったのでそれに合わせて書いた作品なので季節はずれ甚だしいです(苦笑
 前後篇とかにするとこちらの心が折れる気がするので原文のまま最初から最後まで投げます。文字通り最初から最後までなので、目次からあとがき、などなど全部入ってます。ゆえに長いですがご了承くださいまし(汗
 復活一発目がコピー本とか全然褒められるようなことじゃありませんが楽しんでいただければ幸いです。
(自分が過去に書いた作品のあとがきを読むのって懐かしいアルバムを見てるようで感慨深いですが、これって黒歴史なんだよなあ)





 《目次》


 ◆プロローグ 『舞台上の恋人』     2        


 ◆第一章   『夏休みが終わって』   6


 ◆第二章   『文化祭準備期間』    16


 ◆第三章   『恋人の暴走……?』   27


 ◆エピローグ 『祭りはまだ終わらない』 37


 ◆あとがき               38



 


◆プロローグ 『舞台上の恋人』


 静まり返った体育館。会場にいる人たちは息を呑み、ある一点をじっと見つめていた。視線の先にはスポットライトが当てられて光り輝いている。人工の明かりが容赦なく舞台を照りつけ、そしてそこに立っている人をよりいっそう光り輝かせていた。私もみんなと同じように視線が釘付けになる。さっきまで隣にいたその人が今、どうしてか舞台の上で、マイクを握って立っている。
「フェイト……ちゃん……?」
 か細い声で紡いだのは、大好きな恋人の名前。私の声は、静まり返った体育館にいるみんなの耳にはっきりと届いてしまったみたいだった。会場で体育座りをしている生徒の過半数が私の方へと振り返る。
「あ、いえ……何でもないです」
 慌てて手を振って何でもないことをアピールした。すると何名かはフェイトちゃんが立っている舞台へとまた視線を戻した。まだこっちを向いている生徒さんもいたけど、私も舞台へと視線を戻す。
 舞台に立つフェイトちゃんはじっと私のことを見つめていた。マイクを左手に持ち、誰もが惹きこまれるルビーの瞳を私に向けていた。見つめられてるのが恥ずかしくて、私は頬を染めてしまう。
 どうしてあそこにフェイトちゃんがいるの?
 私の疑問に答えてくれる人は誰もいない。もちろんあそこにいることの意味はわかる。今この会場で行われている催しものを考えれば簡単だ。だけどその催し物にフェイトちゃんが参加している理由がわからなかった。私には何一つ言ってくれてない。独断専行だよね? 私に何の相談もなくこんなこと……。

 キィィ……ン

 マイクのスイッチが入れられたのか、体育館に設置されているスピーカーから耳障りな音がけたたましくなった。瞬間、会場にいる誰もが両手で耳を抑えた。次いでフェイトちゃんがマイクを叩く音がスピーカーを通じて会場に流れた。

 ゴン、ゴン

『あれ? マイク入ってるのかな?』
 エコーが若干かかった声。拡声された声はしっかりと私の耳にも会場にいる人たちの耳にも届いた。
 ちゃんと入ってるよ、フェイトちゃん。大丈夫だから、そんなにマイクの頭叩かないで。
『なのは? 聞こえる?』
「えぇっ!?」
 マイクを口元に寄せたフェイトちゃんはなんのためらいもなく私を呼んだ。よもや名前を呼ばれるなんて思わなかった私はたまらずうろたえてしまった。会場にいる人たちの中から「なのはってもしかして……」なんて口々に囁いているのが聞こえてくる。私は羞恥でさらに顔を真っ赤に染めた。もう何が何だかわからない。恋人の暴走はどこまでいくの!?
「なのはちゃん。フェイトちゃん、呼んでるで?」
 あくまで平静を装うとしてるのか、幼馴染の一人であるはやてちゃんは、真顔で私に話しかけてきた。アリサちゃんとすずかちゃんは他の場所から見てるはず。たぶんあの二人も平静を装ってるよね。無関係、と自分たちに言い聞かせてるのかもしれない。
 はやてちゃんはもう一度私に「呼ばれとるで?」と言ってきた。その時はついに平静を保てなかったのか、口角が歪んでいた。
 もぉ、人の気も知らないで……っ!
『なのは』
 そしてすぐにまた名前を呼ばれた。会場の視線はフェイトちゃんと私の二点へと向けられている。在校生以外からも、先生たちや文化祭に遊びに来てくれた来場者からも――この体育館にいる人たちからじっと見られているのがわかる。
 誤魔化しきれない……。他人のフリをするなんてできっこない。
 諦めた私はゆっくりと立ち上がった。すると舞台上にいるフェイトちゃんがものすごく嬉しそうに笑った。だけどすぐに口を真一文字に結んだ。
 すごく嬉しそう。でも一体何を考えているの?
『なのは。こっちに来てくれるかな?』
 スピーカーから流れるフェイトちゃんの声にクラッとしてしまいそうになる。大好きなアルトが「なのは」と呼ぶといつもそうだ。だけどにやけている自分を律し、ゆっくりと舞台へと向かって歩き出した。体育館履きが床を蹴るたびにキュ、キュ、と鳴る。その音だけが会場に響き、視線を集めるのがわかった。
 私に向けられる数多の視線。フェイトちゃんのもとに行く私を羨む視線や、嫉妬している視線など、その種類はさまざまだった。
 すごく恥ずかしい。
 どうして。なんでこんなことになっちゃってるの?
 疑問に思いながらもトン、トン、トンと舞台に上がる。わずか五段ほどの木製の階段を昇るとフェイトちゃんが私に手を差し伸べていた。そんなフェイトちゃんの一動からか、会場の至る所から黄色い悲鳴が上がった。耳障り……、と思いながら私はフェイトちゃんの手を取った。そしてまた、悲鳴に似た歓声が沸き起こる。ただ私とフェイトちゃんが手を繋いだだけなのに。困った学校なの。これじゃ学校内で手も繋いで歩けなくなりそう。
「フェイトちゃん、なんでこんな」
 絶えることのない悲鳴に苦笑しながらみんなには聞こえない程度の声で尋ねた。するとフェイトちゃんはくすくすと微笑んだ。私の手を握る手に少しばかり力を込めて。
「ちょっとだけ、私のわがままに付き合ってくれるかな?」
 照明を一身に受けているフェイトちゃんはすごく輝いて見え、笑顔が本当に嬉しそうである。
「わがままって『これ』のこと?」
「うん。そうだよ」
 舞台に吊るされている大きな横断幕。色鮮やかな装飾が施されていて、今体育館で行われている催しものが何なのかを示していた。
「……いつの間にエントリーしてたの?」
「少し前に。ギリギリだったけど受け付けてくれたんだ。あのね、せっかく文化祭に参加したんだから、なのはとはいっぱい思い出が作りたかったの」
「何も『これ』じゃなくてもよくない? 他にももっと違うやり方があったと思うんだけど」
 肩を落とした私は、あれこれと違う方法を考えた。文化祭を二人で見てまわるのだって十分思い出になるのに。私はフェイトちゃんといられればそれだけで十分なんだよ? 何もこんな人前に出るなんてことしなくても。
「はぁ……」
 ため息一つ吐いた私は会場全体へと視線を向けた。舞台の下はさっきまで上がっていた悲鳴は止んでいた。誰もがじっと私たちを見つめている。これから何をするのか? いったいどんなアピールをしようとしているのか? それをみんなは期待しているようだった。その視線が正直煩わしい。
「なのは」
 ふいに優しい声で名前を呼ばれた。ゆっくりとまた恋人へと顔を向ける。にこりと私に笑いかけるとフェイトちゃんは、マイクを持っていない方の手を私の腰にと添えた。そしてそのまま私を抱き寄せた。抵抗する暇もなく私はフェイトちゃんとピタリと体を合わせる。
「ふぇ、フェイトちゃん!?」
「すぐに終わるよ。本当は……終わらせたくないんだけどね。一組に与えられてるアピールの時間、すごく短いんだ。さっきまでの見てたよね? ここにいられるの三分しかないんだ」
 フェイトちゃんはちらりと体育館に設置されている時計に目を走らす。残り時間を気にしてるのかな?
「あと……一分ないかな? なのはがもうちょっと早く出て来てくれたらいろいろアピールできたのに」
 そう言ったフェイトちゃんは少し不満そうだった。
「私のせい? 私に何も言わずに勝手にエントリーするからだよね?」
「うぅ……怒らないでよ」
「別に怒ってるわけじゃないけど。……いいの? こんなおしゃべりしてて。時間ないんでしょ?」
 舞台に立っただけで終わるのはさすがに癪なので、フェイトちゃんにそう言ったら、フェイトちゃんは「じゃ、始めよかっか」と笑った。

 キィィ……ン

 フェイトちゃんの手に持つマイクがオンになった。すっとフェイトちゃんはマイクに口を寄せた。


◆第一章 『夏休みが終わって』


 一ヶ月もある長い長い夏休み。小学生の頃からそうだけど、この一ヶ月は本当に至福の時間だと思うの。毎日が楽しくて、時間があれば友達とどこかに遊びに出かけたりして、一日を謳歌する。たとえ雨の日でもそれは変わらない。逆に雨だから楽しめるということもあると思う。暑い夏の小休止とも言える雨もまたいい。さすがに台風までいかなくてもしとしとと降る雨はいいよね。傘を差さなくても気持ちが良いくらいだもん。そんな夏休みを毎年楽しみにしてたっけ?
 だけど。うん。
 わかりきっていることだけど、夏休みは永遠じゃない。一ヶ月以上あるからまだ平気。宿題はあとにやればいい。そんな気楽な考えだったその時の自分を恨みたくなる日が必ず来る。気楽に考えていた子は、夏休み最終日は毎年徹夜だよね。
 私?
 私は違うよ。だって私には頼りになる恋人がいるんだもん。学校から出された課題は七月の下旬でもう終わったの。夏休みの間、たくさん遊びたいからじゃない。早く終わらせないといけない理由が私とフェイトちゃんにはあったから。
 ――管理局のお仕事のため。
 学校は休みでも局の仕事に休みはなかった。むしろ私やフェイトちゃん、はやてちゃんの学業が休みなのをいいことにあれこれと任務を言い渡され、長期航行に行かされたり、無茶な教導を命じられたりと今年の夏休みはまったく楽しめなかった。何度かアリサちゃんやすずかちゃんとは遊んだけど、それも一ヶ月以上ある夏休みの中で三回ほど。残念と思う気持ちはもちろんある。今年は海にもプールにも行けなかったし、夏祭りにも行ってない。そうだ、花火大会にも行ってないよね。
 ――でも文句は言えない。
 だって自分たちが選んだ道だから。夢のためなのだから文句は言いたくない。それに夏休みの間ずっと仕事をしていたのには上官からの無茶な命令もあるけど、私たちには他の理由があった。



「フェイトたちは本当に大丈夫なの?」
 九月一日。
 まだ夏の暑さが残り、日中の最高気温が三十五度を超えているこの日は、防災の日で、至高の夏休みが終わりを迎えた翌日だった。
 始業式が終わった聖祥大附属中学の全校生徒はサウナのような体育館からそれぞれの教室に移動したあとだった。私たちは今、一学期の間ずっと勉強してきた教室にいる。三十数人分の机とイス。それから長方形の大きな黒板。その上に時計とスピーカーが設置されているごくありふれた教室だった。教室の壁にはコルクボードが貼られていて、そこにはいくつものプリントが掲示してあり、また写真などが留められていた。一学期中に撮ったクラスの思い出の写真。入学式を行ってすぐに撮ったクラスの集合写真や体育祭の写真、教室内のほのぼのとしたみんなの写真がたくさん貼られていた。
 そんな教室にいる私たちは今、暑さと戦っていた。うちわや下敷きを使って風を起こしたり、冷えたペットボトルを額に当てたりとそれぞれが熱を逃がそうと躍起になっている。各教室には冷房が完備されているのにこの教室は使ってない。理由は担任の先生が「どうせ夏休み中、冷房の効いた部屋でだらけてたのだから学校にいる時くらい自然の風だけを頼りにしなさい」とのこと。つまり死刑宣告を受けたの。
 やむなく私たちは窓を開け放ち、外から吹き込んでくる自然の風だけを頼りにしている。室内温度は三十度ちょっとかな。まるで滝のような汗を掻くほど暑い。とにかく暑い。
 教室の中は、パタパタと風を起こす音以外はすごく静かだった。みんなイスに座ってじっと黒板の方を注視している。ここには夏休みが終わったことを嘆いている人は一人もいなかった。むしろ逆に浮足立っているようにも見える。そわそわと落ち着かない様子が私の周りに座っている友達から見てとれた。
「うん、大丈夫だよ。アリサ。私もなのはも、それにはやてもちゃんと文化祭には参加できるから。準備期間中もちゃんと学校に来れるよ」
 幼馴染であり、クラス委員のアリサちゃんの問いに答えたのは私の隣に座る恋人――フェイトちゃんだった。パタパタとうちわを扇ぎながらフェイトちゃんは満面の笑みで答えた。
「本当にそうならアンタたちにもたくさん仕事与えるわよ?」
 そう言ってアリサちゃんは、黒板の方に体を向けた。そこにはアリサちゃんの綺麗で読みやすい字でこう書かれていた。
 ――『文化祭について』
 と。
 みんなが浮足立っている理由はこれだった。小学校の時には味わえなかった学園祭。それが今月の十八日、十九日に迫っている。私たち一年生は初参加だから余計に興奮しちゃうんだよね。何があるのか、どんな感じなのか、なんて考えてる。もちろん私もフェイトちゃんもはやてちゃんもそうだった。小学校の時は一般参加だった私たちが、今年は楽しみを提供する側になる。夏休みの間、局の仕事をいっぱいこなしたのはこのためだった。今月はなるべく学校に来られるようにと。みんなと文化祭の準備をしたくて。思い出を作りたくて。だから夏休みを返上して仕事に打ち込んだ。その甲斐あってか私たち三人は、今月は急な呼び出しはない。それはリンディさんが確約してくれた。私たちは心をおきなく文化祭に参加することができる。だからフェイトちゃんも嬉しそうなんだよ。もちろん、私もはやてちゃんも。
「フェイトとなのははアタシたちのクラスが何をやるのかっていうのは知ってるんだっけ?」
 コツ、コツ、と黒板にチョークで点を作りながらアリサちゃんは私たち二人に聞いてきた。私とフェイトちゃんは揃って首を横に振った。クラスの出し物が決まったのって一学期の最後の方だよね? 期末テストが終わった後から私は実地訓練で夏休みが入るまで学校に行ってなかったからわからない。フェイトちゃんも同じ時くらいから短期航行が入ってたから知らないはず。それに聞いても教えてくれなかったじゃん。アリサちゃんも他のみんなも。
「アタシたちのクラスは喫茶店をやることになったわ」
「喫茶店? すごいね。まさか食品団体だなんて思わなかったの」
「選考会に出席したはやてに感謝すべきなのかしらね、ここだけは。運よくくじ引きでアタシたちのクラスが食品団体の権利をゲットしたってわけ。調理室にある調理台を二つ貸してもらえるわ」
 アリサちゃんはそう言って廊下側の列に座るはやてちゃんの方を向いて少し笑った。はやてちゃんは得意げに「運だけはあるんよ、私」と胸を張った。
「だけどね」
 と、ここでアリサちゃんの口調が変わった。さっきまで楽しそうだった声音に少し不満の色が混じる。
「アタシたちのクラスは喫茶店なんだけど、ただの喫茶店じゃないのよ」
「ふぇ? ただの喫茶店じゃない?」
「アリサ。それってどういうこと?」
 フェイトちゃんと二人揃ってまた首を傾げる。するとクラスのみんなから苦笑いが生まれた。アリサちゃん同様に困惑気味でもあった。ただの喫茶店じゃないってどういうことなんだろう……?
「食品団体を勝ち取ったはやてに意見を伺ったアタシたちがバカだったのよ」
「ふぇ?」
「そんな言い方ないやろ? アリサちゃん、あんとき「ご褒美に何か提案してもいいわよ」って言うたやん!?」
「だからそれがバカだったっていうのよ。だいたいもっとマシなものを提案してくると思ったのによりにもよって……っ!」
 アリサちゃんははやてちゃんを睨みながら手元にある紙をクシャリと握った。それは生徒会に提出したこのクラスの出し物が書かれている企画書だった。生徒会で審査し、許可が下りたからこうしてクラス委員兼文化祭実行委員のアリサちゃんの手元に返ってきてる。それが今音を立てて形を変えていた。
「とにかく何をやるのかを話してほしいんだけど」
 不満そうに、そして悔しそうにしているアリサちゃんにフェイトちゃんが先を促す。するとアリサちゃんは小さくため息を吐いた。
「決定事項だから今さら反論とかしないでよね」
「しないよ。せっかく参加できるのに文句言うなんてこと、私もなのはもしないってば」
「うん、うん」
 フェイトちゃんの言ったことに対し相槌を打つように私は頷いた。するとアリサちゃんは「じゃ、覚悟して聞いてね」と言ってきた。
「アタシたち一年生が初めて参加する文化祭。このクラスの出し物はメイド喫茶よ」
「ふぇ?」
「メイド喫茶?」
 重々しい口調で話したアリサちゃんはこめかみを押さえながら、「なんでこんなことに……」と項垂れていた。私はフェイトちゃんと顔を見合わせた。フェイトちゃんはキョトンとしている。
「にゃはは……大変なことになりそうだね」
 メイド喫茶、か。それは確かにアリサちゃんやみんなも困惑するはずだ。はやてちゃんらしい意見と言ったらそうだけど。
「え? あ、うん。そうだね。大変そうだ」
「ちなみにメイド服は全部私と那美ちゃんのオーダーメイドやからね。二人で人数分のメイド服、用意したるから楽しみに待っとってな!」
 はやてちゃんとは立ち上がるとクラスのみんなに高らかに宣言した。するとクラスから「これはサイズぴったりだね」と安堵とも困惑ともつかない囁きが聞こえてきた。
 はやてちゃんが作るのならサイズに問題なんてなさそうだよね。日頃、私たちの成長を計ってるはやてちゃんなら。
「ねえ。なのは」
「ふぇ?」
「聞きたいことがあるんだけどいいかな?」
「うん。いいよ」
 今まで静寂に包まれていた教室もはやてちゃんの力強い言葉により、打ち砕かれ、教室のあちらこちらからおしゃべりが始まっていた。もちろん内容は今月の第三土曜日、日曜日に行われる聖祥大附属中学学園祭のことだった。土曜日が校内だけの文化祭。そして日曜日が一般公開になっている。学内三大行事の内の一つなのだから興奮しないわけがないよね。
 クイ、クイとシャツを引っ張られた私は隣に座るフェイトちゃんの方へと体を向ける。フェイトちゃんはまだどこか不思議そうな表情だった。そしてゆっくりと切り出す。
「……メイド喫茶って何?」
「え!?」
 みんなに聞こえないような小さい声で言ったフェイトちゃんに対して、私は声を大きくして驚いてしまった。ちらほらと私へと視線が集まる。慌てて「何でもないよ」と誤魔化した私は、フェイトちゃんの方へと向き直った。
「知らないの?」
「うん」
「そっか」
「ごめん」
「あやまることないよ。フェイトちゃんの知らないこと、こっちの世界にはまだまだいっぱいあるもん」
 ミッドチルダからこの世界に移り住んでからフェイトちゃんもかれこれ五年になる。それでもやっぱりこの国の文化とか風習なんかはまだフェイトちゃんは全部理解してないわけで。だからメイド喫茶を知らなくても当然だと思った。それにそういうところに行ったこともなければ、教えたこともないもんね、私。だいたいなのはという恋人がいながら、メイドに興味を持つなんてこと許さない。もしフェイトちゃんが興味を持っちゃったら、お話して考え直させるか、私がフェイトちゃんのメイドさんになるだけだもん!
「あのね。フェイトちゃん。メイド喫茶っていうのは」
 私はアリサちゃんがさっき浮かべていた困惑の表情をそのままトレースしたかのような表情で説明した。メイド喫茶について真剣に説明してる人なんてきっと日本で私だけだよね。
 フェイトちゃんに説明したのは、テレビや雑誌なんかにたまに掲載されているメイド喫茶の情報をかき集め、繋げたもの。若干、私の偏見も入ってるから説明自体は継ぎ接ぎだらけで信憑性に欠けるかもしれない。だけど入店したら「おかえりなさいませ、ご主人様」って言って、お店から出る時は「行ってらっしゃいませ、ご主人様」と「早く帰ってきてくださいね」って言うのは当たってるはず。あとはメイド服だよね。そのお店の個性を象徴するメイド服。これが結構大事だって何かの雑誌で読んだのを覚えてる。それからご主人様の命令には絶対遵守だっけ?
「――てな感じなんだけど。わかってもらえたかな? もっと簡単に言うとすずかちゃん家のノエルさんとファリンさんのお仕事を喫茶店でするってことかも」
 説明を終える頃になるとフェイトちゃんはわなわなと肩を震わせていた。
「……なのはは誰かをご主人様って呼ぶの?」
「そうなるかもだね。フロアーを担当するか裏の仕事を担当するかはこれから決めるからわからないけど」
「私だけにご主人様って言ってくれないの?」
「私、フェイトちゃんのことご主人様って呼んだことあったっけ?」
「うん。だいぶ前だけど」
 言ってフェイトちゃんは顔を染めた。瞬間、恋人が何を考え、何を思い出したのかを悟った。すると私も顔にも熱が集まった。
「ち、ちがっ!? あれはその……フェイトちゃんがそう呼んでほしいって言ったからであって別にっ」
「すごく可愛かったよ。何度もご主人様って呼んでくれて。ふふふ。またあの時みたいなことしようね」
 笑ったフェイトちゃんの目は時と場所を考えずに情欲に染まっていた。
「もぉ、バカ。そういうお話をしてるんじゃないの! 話、変えないで!」
「ごめん、ごめん」
「むぅ」
 拗ねた私の手をフェイトちゃんは握った。ご機嫌を取ろうとしているのか時折手の甲を撫で、指を絡めてくる。
「なのは。ちゃんと教えてよ」
「メイド喫茶についてはある程度教えたよ?」
「そっちじゃなくてなのはの気持ち」
「私の?」
「なのはは私以外の人に仕えちゃうの?」
「そ、そんな大ごとじゃないよ? これは出し物であっていいとか悪いとか関係ないんじゃ……」
「なのはには関係なくても私には関係あるんだ」
 ぎゅっと手を絡めたフェイトちゃんは真剣な表情をしていた。真紅の目が私の蒼を真っ直ぐに見つめている。
「フェイトちゃん」
「なのはが私以外の人に奉仕してるのなんて見たくない」
「にゃはは。それって嫉妬なの?」
「うっ。そ、そうだよ、嫉妬だよ。だってなのはは私の大事な人で……恋人で……。恋人が他の人と過ごしてるのはやっぱり嫌だよ」
 そう言ってフェイトちゃんはまた顔を染めた。フェイトちゃんは正直だね。堂々と言われるのは恥ずかしいけど、嬉しいことに変わりはない。
「なのははフェイトちゃんだけだよ?」
「ホントに?」
「うん。いつだって私はフェイトちゃんだけを想ってる。だから私は他の人にご主人様、なんて言わないよ。アリサちゃんに頼んで裏の仕事を担当させてもらうようにしてもらうから。ね? これでいいよね?」
 私は握られている手に反対の手を重ねた。
「なのは……」
 掠れるような小さい声はすごく安心しきって聞こえた。
「ほら。だからそんな顔しないで。文化祭楽しめないよ?」
「うん。そうだね」
 ようやくフェイトちゃんは笑顔に戻った。するとアリサちゃんが待ちかねてたように私たちへと話しかける。
「もういい?」
 ものすごく呆れた顔だった。うんざりしてるとも言う。そしてクラス中からクスクスと笑い声が聞こえてきた。……全部聞かれてたりする?
「えっとあの……うん。いいよ?」
 私はそう言いながらフェイトちゃんと絡めていた手をパッと慌てて放した。フェイトちゃんはあからさまに残念な顔をしている。私だって本当は放したくないんだよ。
「イチャつくのなら放課後、どっちかの家でやりなさいよね。でなかったらアンタたち二人とも別々の仕事を担当させるわよ」
『それだけはやだ!』
 思わず声を大きくしてしまった。だけどそれはフェイトちゃんも同じで、二人揃ってだった。声を揃えての反論はクラスに大きな笑いを生んだ。あちらこちらから「やっぱりなのはちゃんとフェイトちゃんは変わらないね」や「バカップルもあそこまでくると尊敬しちゃうよね」などなど言いたい放題だった。私たちの関係はすでに各方面でばれてるということだよね。どこでばれたのかはわからないけど。クラスメイトの声を耳にした私は羞恥から頬をほんのりと染めてしまった。そしていよいよアリサちゃんの怒りが頂点に達してきたのか、顔を引きつらせ始めるのを見て、瞬時に身構えた。
「こ、この……バカップルがっ!」
 アリサちゃんは怒りに震える肩を上げ、手にしていたチョークを私に投げつけてきた。一直線に私目がけて飛んでくるチョーク。日頃の訓練のせいか避けるのはすごく簡単だった。だけど避けること自体必要なくて。
「こんなの投げつけちゃダメだよ」
 あくまで冷静に言うフェイトちゃん。その手には今アリサちゃんが投げつけてきたチョークが収まっていた。
「なのはちゃんの守り神か、フェイトちゃんは……」
「ふふふ。さすがフェイトちゃんだよね」
「隣にフェイトが座ってなかったら絶対に当たってたのに。フェイトのああいうところは面白くないわ」
 はやてちゃん、すずかちゃん、アリサちゃんの三人はそれぞれそんな事を口にしていた。教室内でチョークを投げつけるという悪行にはどうしてかフェイトちゃん以外は触れなかったのは疑問なの。
「と・に・か・く! アタシたちのクラスはメイド喫茶よ! もう文句言わないでよ。特にフェイト!」
「わ、私!?」
「絶対文句言ってくるのアンタだってわかってるんだからね。なのはに何を指示しても文句は言わないでよね」
 ズビシとフェイトちゃんを指差すとアリサちゃんは声の端端を強調して言った。
「そこまで言われるなんて思ってなかったよ」
「大丈夫だよ。フェイトちゃんが文句を言うようなこと起こらないから」
「なのは、ホント?」
「うん。だってアリサちゃんだもん。ちゃんと私たちのこと考えてくれてる」
 フェイトちゃんに笑いかければ落ち着いたような表情に変わる。
「さて。どこかの二人のせいで話がだいぶ違う世界に飛んじゃったけど、元に戻すわよ。今から文化祭の準備期間中と文化祭当日の役割を分担するわ。きっとこれから慌ただしくなるだろうからよぉーく聞いて、自分が何をするのか、ちゃんと把握してちょうだい」
 バンッと教卓を叩き、みんなの注目を集めたアリサちゃんは、どこから持ち出したのか先生が使う指示棒をヒュっと伸ばし、黒板をコンコンと指した。そこには『会計』『装飾』『バックスタッフ』『フロアー』などなど、いろいろな仕事が書かれていた。
「なんだか楽しくなってきたね」
「うん。私たちにとって最初の文化祭だ。楽しくならない方がおかしいよ」
「にゃはは。そうだね」
 賑わうクラスを見まわしながらフェイトちゃんと話をする私。もちろんアリサちゃんの話もちゃんと聞いてる。聞いてないとフェイトちゃんと違う仕事を回される可能性が高いから。だから意見を求められたらちゃんと返事もしたし、こちらからも意見を提案した。
「ねえ、フェイトちゃん。体育祭の時よりもみんな輝いてると思わない?」
「うん。私もそう思ってた。体育祭の時は自分たちがやりたいことできなかったよね。三年生の指示を仰いで動くだけだった。でも文化祭はクラス単位だ。今みたいに自由に話ができるし、私たちがやりたいことを誰にも咎められたりしない。だからじゃないかな」
「咎める人がいないから暴走する人も出てるみたいだよ」
 さりげなくはやてちゃんの席を見れば、那美ちゃんと机を向かい合わせ、ルーズリーフに何やら絵を描いているのが見えた。たぶんメイド服のデザインを考えてるんだよね、あれは。ここからじゃよくわからないけど、胸が開けてるような気がする。
「ふふふ。はやてがイメージした通りのメイド服がそのまま衣装になるとは限らないよ。だってこのクラスにはアリサがいるんだから」
 フェイトちゃんは笑いながらアリサちゃんの方を見る。黒板に色鮮やかなチョークでいくつもの線を引きながら、声を大きくしているアリサちゃんは、クラスのリーダーそのものだった。人を引っ張るのが本当に上手なの。きっとアリサちゃんは指揮官に向いている。
「アリサが納得するまではやてはいったい何枚デザイン画を描くんだろうね。ちょっと楽しみだ」
 クスクスと笑ったフェイトちゃんに私も笑みを浮かべた。
「なのは」
「ん?」
「文化祭。いい思い出になるといいね」
 微笑んだフェイトちゃんは心の底からそう言ってるのがわかった。
「夏休みを返上したんだもん。いい思い出になってくれないと嫌だよ」
 フェイトちゃんといられるのならそれで十分なんだけどね、とは今この場では言えなかった。もちろんクラスのみんなともいい思い出を作りたいと思ってることに変わりはない。だけど恋人のフェイトちゃんと、と考えてしまうのは仕方がないことだよね?
「なのはとフェイトの二人は、準備期間中はクラスの装飾と備品の買い出しに材料の買い出し。それから」
「あ、アリサ!? 準備期間中だけでも私たちの仕事多くないかな?」
 いつの間に私たちに話しかけていたアリサちゃん。指示棒でいろいろな仕事を指しながら真剣な表情をこっちに向けていた。
「大丈夫、大丈夫。アンタたちならできるわよ。信じてる」
「ええーっ!? なんだか嘘っぽい言い方だよ、アリサちゃん!」
「つべこべ言わない!」
 一喝するとアリサちゃんは黒板に私たち二人の名前をいくつか書き入れていった。書き入れられたその仕事全部が私とフェイトちゃんが担当するんだ。
「……四つくらいあるね」
「それも準備期間中だけでだね。アリサは私たちを過労死させる気なのかな」
「むぅ。絶対に私たちがラブラブできないようにしてるんだよ」
 さっきまで私は、アリサちゃんなら私たちを引き離さないと思ってた。実際引き離されることはなかったけど、これじゃ作業が忙しくてフェイトちゃんに甘えられないよ。
「ラブラブって……」
 苦笑いを浮かべる恋人に一度微笑むと私はきっとアリサちゃんを睨みつけた。
「絶対にそうだよ」
 密やかに文句を言う私に向かってアリサちゃんはニヤリと笑ってきた。確信犯だ……。
「アリサちゃん。負けないからね」
「なのは?」
「ううん。こっちのお話」
 慌てて手を振る。フェイトちゃんは首を傾げながらも「そっか」と言って机を私の横にピタリとくっつけた。
「ふぇ?」
 いきなりのことに思わず驚く。
「ふふふ」
 楽しそうに笑うフェイトちゃんにただただ疑問府が浮かぶ。他のクラスのみんなも同じように机をくっつけてるからフェイトちゃんの行動は不自然じゃない。だけどみんな教室の装飾をどうするのかや喫茶店で出すメニューはどうするのかを話し合ってる。なのに私とフェイトちゃんはその話し合いに混ざらない場所で机を寄せ合っていた。
「ここじゃお話聞けないよ?」
「ちょっとだけでいいんだ」
「ふぇ? 何が」
「うん。待ってて」
 くすりとフェイトちゃんが笑うと机の上に力なく置かれている私の手を取った。それから机の下に持っていくとさっきみたいに指を絡めてきた。
「ふぇ、フェイトちゃん!?」
「なのは。さっき名残惜しそうにしてたから」
「あ。うん……でも、怒られちゃうよ」
 ちらっとアリサちゃんの様子を伺う。真剣な表情で教卓の周りに集まってるクラスのみんなと話し合いをしていた。その輪に参加してないのは二組だけ。廊下側の列でメイド服のデザインを考えるはやてちゃんたちとこうしてこっそり手を繋いでる私たちの二組。
「だから少しだけ。いいよね? なのは」
 ぎゅっと絡めている指に力を入れるフェイトちゃん。そこからじんわりとフェイトちゃんの温もりが広がっていく。自然と私も手を握り返した。
「なのはは正直だね。ふふふ」
「うぅ……」
「嬉しいよ」
「ん」
 しばらくの間、みんなから見られないように机の下で手を握っていた私たちはアリサちゃんの眉間にしわが寄ってきたのを見つけた頃に話し合いの輪に混じっていった。
 そして私たちは、この日はお昼で解散のはずなのに三時まで教室でクラスの出し物についての会議を続けていたのでした。


◆第二章 『文化祭準備期間』


 授業と並行して進められる文化祭の準備。日を追うごとに学校内は慌ただしくなっていた。廊下の至る所には段ボールが山積みに置かれているのを見かけるようになった。
 私たちの教室も似たような状態だった。ロッカーの上には文化祭当日教室を彩るための装飾品が段ボールに入れられて置いてあったり、ロッカーの中には生徒会から貸し出されたガムテープやマーカー、テーブルクロスといった備品があったりと教室の持つ本来の機能――勉学の場という機能を失っていた。
「――お疲れさま。今日はもうこの辺でいいわよ」
 文化祭を明後日に控えた木曜日の放課後。時刻にして夜の七時を回ったくらいだ。腰をポンポンと叩きながらアリサちゃんがクラスにいるみんなに声をかけた。
「はぁ~……ようやっと終わりかぁ」
「さすがに張り切り過ぎた感じするものね。まだ明日も準備があるわけだからこの辺にしておきましょ」
 手近にあるものを整理しながらアリサちゃんは再度みんなに伝える。するとクラスのみんなもカチャカチャと使っていた道具を片付け始めた。私も同じように片づけを始める。
「ふみゅ~……腰が痛いよぉ」
「お疲れさま、なのは」
「あ。フェイトちゃんもお疲れさま」
 トンカチや釘を片付けていた私のそばにフェイトちゃんが歩き寄っていた。フェイトちゃんもアリサちゃんと同じように腰を押さえてる。きっと机を運ぶのでやられちゃったんだよね。今日一日中力仕事ばかりさせられてたし。
「教室もだいぶ様変わりしたよね。もうほとんど完成って感じだ」
「うん。もういつだってお客さんを招いてもオッケーって感じなの」
 ぐるりと教室を見まわすフェイトちゃんに倣って私も教室を眺めた。
 今の教室は今朝と比べるとまったく別の空間になっていた。今朝の時点で綺麗に列を成していた机は、四つでひと組のテーブルに変わっている。それが全部で十二席あった。少し教室が狭く感じるけど、でもレストランとかと何ら変わらない。今日買ったばっかりの真っ白なテーブルクロスを敷いた机はもう立派な喫茶店のテーブルだ。黒板側の方に目を向けるとカーテンで仕切られていた。その向こうではホットプレートや小型の冷蔵庫がもうすでに置かれている。フェイトちゃんの言う通り、教室はもうだいぶ完成形に近い状態にまでなってる。
 ここまで来るのに相当体力を使った気もするんだけどね。
「あとは材料の買い出しだけだね」
「買い出し班って私とフェイトちゃんだよね?」
 そんなことをだいぶ前に言われた気がするよ。うぅ……まだ残暑が続いてるのに買い物に行かされるのはちょっと嫌だな。
「他にもアリサとすずかが買い出し班だよ。だからそこまで荷物は多くならないと思う」
「そうかな? きっとアリサちゃんのことだから私たちの方にいっぱい買わせようとするかも」
「――それがお望みにならそうしてあげるわよ?」
「うえ!? あ、アリサちゃん……っ」
 振り返るとアリサちゃんが腕を組み、少し機嫌を損ねたような表情で立っていた。
「アリサ。お疲れさま」
「フェイトもね。それよりなのは。そんなにたくさんお買い物がしたいの?」
「いえいえ! そんなことないですっ。むしろちょっとでいいよ!」
 慌てて手を振るとアリサちゃんから重たいため息が漏れた。私は苦笑しつつも肩を強張らせる。いったい何を言われるかわからないからだ。
「ふぅ……。怒る気力も起きないわ。明日のことはまた明日、話ししましょう。今日はもう片づけをして帰る」
「あ、うん。お疲れさまです」
「アリサ。そんなに疲れてるの?」
「見てればわかるでしょうに」
『ははは……そうでした』
 今日は朝から生徒会室と教室を行ったり来たりしてたもんね。それだけじゃなくて準備室から机を運んだり、実行委員のお仕事で何度も体育館に行ったりしてたっけ? それはさすがに疲れちゃうよね。
「アタシもそうだけど、フェイトもちゃんと体を休めなさいよ。明日は今日ほど大変な作業はないけどね」
「うん。そうするよ」
「なのはもよ」
「ふぇ? 私も?」
 私そんなに力仕事してないからそこまで疲れないよ?
「フェイトと今日一緒にいられなかったからって家に連れ込むとかしたりなんか絶対にダメよ」
「なっ!?」
 アリサちゃんの思わぬ一言に私は驚きの声を上げてしまった。フェイトちゃんも驚いているのか目を見開いている。確かに今日はフェイトちゃんとほとんど一緒にいられなかった。だけど私そんなこと考えてないよ!
「アリサちゃんっ!」
「ギャーギャー騒がない。とにかく二人とも今日はさっさと帰って寝てちょうだいよ。もちろんみんなもだけどね。今日は無理させちゃったからゆっくり休んでちょうだい」
 私たちに一瞥をくれるとクラス全員に言った。みんなから返事をもらうとアリサちゃんは「解散」と一声かける。するとぞろぞろとみんなが教室から出ていった。私とフェイトちゃんもアリサちゃん、すずかちゃん、はやてちゃんにそれぞれ声をかけると真っ暗な校舎を後にした。
 帰宅路はもうすでに真っ暗だった。九月の半ばに入ったこともあり、日が沈むのが早い。半月前は七時台でも十分明るかったのにね。
「なのは」
 学校から出てしばらく歩いたところで隣を歩くフェイトちゃんに名前を呼ばれる。疲れがちょっと混じった頼りない声に苦笑しつつも振り返るとフェイトちゃんが右手を私に差し伸ばしていた。疲れた顔だけど、懸命に笑顔を浮かべるフェイトちゃんに私も笑みを浮かべ返した。そこまで私に笑顔を見せようとしなくてもいいのに。無理しちゃって。
「はい。フェイトちゃん」
 差し伸ばされた手に私も手を伸ばす。お互いの指が触れると指先を絡めながら手を握った。私よりも少しだけ大きな手はフェイトちゃんの心のように暖かかった。フェイトちゃんの温もりが手から腕、体へと伝わっていくと心が震える。今まで何度も手を繋いできてるのにまだ私はドキドキしてしまう。この先もきっとドキドキしちゃうんだろうな。私は。
「やっと手、繋げたね」
 ぎゅっと力を込めながらフェイトちゃんが満足そうに呟いた。
「ホントだね。今日は二人きりでいられる時間なかったもんね」
 あの忙しさを思い出すと余計に疲れてくるので思い出さない。ただ慌ただしかったというイメージだけで話を進める。
「アリサは私がなのはの方に近づいていくのを見るとすぐに声をかけてきたんだよ。『アンタはこっちよ』って言ってね。逆らおうとすると鋭い視線で睨まれちゃって」
「にゃはは……そうだったんだ。私もね、フェイトちゃんの方に近寄っていこうとするはやてちゃんとすずかちゃんにすぐ声かけられたんだよ。『手伝ってほしい』って言われて」
「とことん私となのはが二人きりになるのを阻止してたってわけだ。ヒドイなぁ三人とも」
「二人きりになると仕事しなくなると思ったんじゃないかな?」
 そんなこと絶対ないのに。って私が思ってても向こうはそうは思ってくれないんだよね。
「なのはがそばにいてくれたらもっと仕事できるのに。今日だってなのはが一緒だったら筋肉痛になんて絶対にならないで済んだよ? アリサに何度訴えても聞き入ってもらえなかったけど」
「アリサちゃんに頼んでたんだ。びっくり」
「だってなのはと一緒にいたかったんだもん。初めての文化祭だから当日だけじゃなくて準備中もなのはといられたらなって思ってたんだけど、上手くいかなかった」
 フェイトちゃんはしょんぼりと肩を落としてしまった。そこまでフェイトちゃんは考えてくれてたんだ。嬉しいな。
「もっと一緒に作業とかしたかったのにな。残念」
「作業はできないけど今一緒にいられてるよ。これじゃダメ?」
「ちょっと不満、かな。一日ある内でたったこれだけなんて寂しいよ。やっぱりもうちょっとなのはと触れていたいって思っちゃう」
 フェイトちゃんは握ってる手に力を込めながらも恥ずかしそうに言った。
「そっか。もうちょっと触れてたいんだ」
「うん。でももう分かれ道だ。……今日はツイてない」
「そんなに落ち込まれても」
 私と一緒にいたいって言うのは本当に嬉しい。んー、フェイトちゃん今日はすごく頑張ってたし、何かご褒美とかあげられたら。
「ねえ。今日、リンディさんたちお家にいるの?」
「母さん? 母さんたちなら一昨日からいないよ? 短期だけど航行任務についてるんだ。私たちがお仕事をしない分を埋めてくれてるよ」
「あ。そうなんだ。なんだか悪いことしちゃってる気になってきちゃった」
 夏休み頑張ったから九月は休みをください、なんてやっぱり無理があったよね。結局リンディさんたちに迷惑かけちゃった。
「母さんたち気にしてないよ。むしろ夏休みを仕事漬けにさせちゃったことを悔やんでた。もっと遊ばせてあげたかったって」
「そうだったんだ」
「うん。中学まではこっちの世界にいるって話でしょ? だから母さんはなるべくこっちでの思い出をたくさん作ってほしいって思ってるみたいなんだ」
 フェイトちゃんはそう言ってリンディさんが九月を全部休みにしてくれた時のことを話してくれた。具体的には上層部にかけ合ったお話とか、休暇申請のお話なんかだ。私たちが知らないところでリンディさんが話をつけてくれたから九月はお仕事が休みになったということを知らされた。
「今度ちゃんとお礼言わないとだね」
「お礼なら今度の文化祭でいい思い出を作ること、って言ってたよ。日曜日は母さんもエイミィもクロノも休みだから遊びに来るって。その時にいっぱいサービスしてほしいとも言ってた」
「にゃはは。それならリンディさんには特製のお茶を用意しないと」
 緑茶に砂糖をブレンドするというきっとこの世界でも向こうの世界でもリンディさんしか愛飲者はいないお茶を用意しないといけない。
「ところでなのは。どうして母さんたちのことを聞いたの?」
「あ。うん。今からね、フェイトちゃんの家に行こうかなって」
「家に? どうして?」
「お泊まり」
「……え? ええっ!?」
 何の計画性もない私の一言にフェイトちゃんはよほど驚いたのか、大きな声を上げた。街灯が照らす夜道に響き渡るフェイトちゃんの声は、近所の人々に不信感を抱かせたのか、至る家の窓が開けられ、こちらを伺っているのがわかった。
「ふぇ、フェイトちゃんっ、声大きいよ」
「だ、だって……なのはが泊まるっていうからっ。さっきアリサに言われたばっかりだよ? 『さっさと帰れ』って」
「うん。言われたよね。でも大人しく聞くなんてことしないよ。私はフェイトちゃんといたいんだもん。フェイトちゃんだって私といたいってさっき言ってくれたもん。ね? いいでしょ?」
 これ見よがしに手を胸に引き寄せておねだりをするとフェイトちゃんは困ったような顔した。若干頬が染まってる辺りを見るともう一押しで落ちる気がした。
「ね? フェイトちゃん。今日は泊めてよ……」
「うぅ……」
「いっぱいサービスしちゃうよ?」
「さ、サービスっ!?」
「うん。背中を洗ったりとかご飯を作ったりとか。他にもマッサージもしてあげる!」
「そ、そこまではなのはに悪いよ。なのはだって今日はいっぱい動いて疲れてるのに」
「私の疲れはフェイトちゃんのそばにいるとすぐに吹っ飛んじゃうもん」
 はっきりと力強く言うとフェイトちゃんは困った顔から笑顔に変わった。よほど嬉しかったのか満面の笑みだ。
「ありがとう。なのは」
「それじゃ泊めてくれる?」
「……えっと、うん。いいよ」
 ほんの少し間が空いたもののフェイトちゃんは泊めてくれることを許可してくれた。私は嬉しく腕にぎゅっと抱きついた。暗がりの道でこんなことをしていたらきっとアリサちゃんに怒られちゃうかもだけど、今はこうしてフェイトちゃんを近くで感じていたい。だからいいよね? フェイトちゃん。



 フェイトちゃんの家に着いた私はさっそく冷蔵庫を借りて、ご飯を手早く作ってあげた。フェイトちゃんはここでも困ったような顔していたけどね。フェイトちゃんはイスに座って私が料理をしているのをじっと見ていた。正確に言うと私が無理矢理フェイトちゃんを座らせたって言った方が正しい。さっき料理を作ってあげるって言ったし、それにフェイトちゃんすごく疲れてるみたいだし。その証拠にイスに座ったフェイトちゃんはだらりと体を倒し、テーブルの上でぐったりとしていた。
 食事が終わった後はお風呂に入って、体の洗いっこなどをしたりと二人きりをいいことにやりたい放題だった。そこまで過度なスキンシップは取ってないけど、それでもキスの一つや二つはご愛嬌だよね。私としてはもうちょっとしていたかったんだけど、フェイトちゃんが逆上せそうになってたので已む無く触れ合わせいた唇を離した。
 そして今、私たちはフェイトちゃんの部屋にいる。ベッドの上でフェイトちゃんがうつ伏せに寝て、私がフェイトちゃんの腰に座っている。
「ん……んぁ。そ、そこいい……」
「ここ? この辺りかな」
「ん~……気持ちいい……」
「よかった。そう言ってくれて」
 腰に当てた手のひらにぐっと力を入れ、フェイトちゃんの腰を押していく。「ん~」と気持ち良さそうな声をフェイトちゃんが漏らす度に私はくすくすと笑みを零してしまう。なんだかんだ言ってフェイトちゃん、マッサージしてほしかったみたい。
「なのは。もうちょっと上も押してもらっていいかな?」
「うん。いいよ」
 お気に入りの黒のキャミソール姿のフェイトちゃんにあらぬ気持ちを寄せつつ、私はゆっくりと背中に指を走らせた。するとフェイトちゃんからくぐもった声が出る。
「ただ指を這わせてるだけだよ? 気持ちよかったの?」
「なのはがしてくれることはみんな気持ちいいんだよ。それに嬉しい」
 枕に頭を乗せているフェイトちゃんは小さい声でそう言うと顔を枕へとうずめてしまった。それがなんだか可愛くて私は微笑んだ。
「にゃはは。だったらこれはどうかな」
 私はゆっくりと体をフェイトちゃんの方へと倒し、肌が露出している部分に口づける。するとフェイトちゃんの身体はびくりと震えた。私はそれに構わず何度も何度も背中に口づけていく。今さっきまでお風呂に入っていたからフェイトちゃんの身体はまだ少し火照っていて、唇で触れるその部分が暖かくて気持ちよかった。徐々にキスを落としていく場所を変えていく。輝く金色の髪を左手で束ね、フェイトちゃんの首を露わにした。ゆっくりと唇を当てながら項へとちょっときつめのキスを落とす。
「ん……ぁ」
「にゃはは。フェイトちゃん、可愛い」
「うぅ……いきなりキスしてくるなんてずるいよ、なのは」
 ちらっと私を見てくるフェイトちゃんの顔は赤くなっていた。たぶん私も赤いはず。私は今項に落としたキスの場所を優しく撫でた。そこには紅い花が咲いていた。私だけが付けられる所有印ってやつ。曰くキスマーク。
「ここならアリサちゃんやはやてちゃんにはばれないよ」
「それはそうだけど。もう」
「フェイトちゃん、嫌だった?」
「……嫌じゃないよ。だってさっきなのはがしてくれることみんな気持ちいいって、嬉しいって言ったもん」
「ん。ありがとうフェイトちゃん」
「だけどね。なのは――」
「ふぇ? ……ってあれ?」
 さっきまでフェイトちゃんを見降ろしていた私は、なぜかフェイトちゃんを見上げていた。フェイトちゃんは真っ白な天井を背負うようにして私を見つめている。
「私もなのはにキスしたい」
 はっきりとした口調。だけどどこか声が震えてる。私はフェイトちゃんの頬に手を添えた。フェイトちゃんは猫のようにゆっくりと頬を私の手にすり寄せる。
「私もフェイトちゃんとキスしたいな」
「ホントに?」
「どうしてここで嘘言わなくちゃいけないの?」
「そっか。ごめん」
 わざとらしくあやまるとフェイトちゃんは私の両手に自分の両手を絡ませ、そしてベッドに縫い付けた。それからゆっくりとフェイトちゃんは唇を寄せてくる。すぐに感じるであろう柔らかな感触を心待ちにしながら私は瞼を降ろした。
『ん……』
 お互いの唇が触れるとトクンと心臓が跳ねた。もう今日で四度目くらいになるのに。恋人同士になってからだと数も分からないほどキスをしているのに私はまだドキドキしてしまう。薄っすらと目を開けると目と鼻の先に端正な顔立ちのフェイトちゃんがいた。触れる唇はそのまま。時折角度を変える時だけ離れるけど、それ以外は触れ合わせたままだ。嬉しくて絡めている手に力を込める。するとフェイトちゃんも力を入れ、握ってくれた。
「もう疲れも吹っ飛んじゃったね」
 しばらくキスをしていた私たちはやがてゆっくりと離れた。開口一番に言ったフェイトちゃんは頬を真っ赤に染めていた。私は相槌を打つようにコクリと頷く。しばらくフェイトちゃんは私を組み伏したままでいた。たまに視線が合うとにこりと笑いまたキスを落とす。
「もうすぐ文化祭だね。楽しみなの」
「うん。そうだね。私たちの最初の文化祭だからね」
「私たちのクラス、お客さんいっぱい入るかな?」
「きっと入るよ。みんな一生懸命に準備してるんだから。それまだ準備期間も残ってるから大丈夫。きっと素敵な喫茶店なるよ」
 フェイトちゃんはコテンと私の横に寝そべるとこっちを向いて微笑んだ。条件反射で私も微笑み返す。
「今日はちょっと早いけどもう寝ようか? 明日も今日と同じで朝一に集合だしね」
「そうだね。それに買い出しもあるから体力も温存しないと」
「ふふふ。そうだね。体力を温存しないとね」
「ん? 何?」
 笑い方がちょっと嬌笑っぽく聞こえたんだけど気のせいかな?
「おやすみなさい。なのは」
「あ。うん。おやすみなさい。フェイトちゃん」
 ぱちりと電気が落とされると私はフェイトちゃんに抱かれるようにして眠りについた。



 翌日。
 昨日に引き続き文化祭の準備に追われることとなった。一通り教室の装飾を終えていたにもかかわらず、アリサちゃんが最終的に納得してくれたのは二日目の作業を始めてから四時間後のことだった。テーブルの細かな位置やカーテンの取りつけ、仕切りを挟んで黒板側の簡易キッチンのスペース。教室の至る所を眺めまわしてようやく「OK」サインが出た。
 私とフェイトちゃんは本来買い出し班だったんだけど、教室の内装班と交代し、ずっとアリサちゃんの指示のもとあれを運んだり、これを取り付けたりでこき使われていた。アリサちゃんが言うには私たちになら遠慮なく命令できるとのこと。フェイトちゃんと同じ作業ができていることを喜んでいた私は文句を言うことなく、アリサちゃんの指示に従っていた。
「ほわぁ……さすがにこれだけ細かく作業していったら見違えるなぁ」
「ホントだね。今朝と比べると全然違うよ」
 コンクリート造りの教室が十時間近い内装工事を経て、今や洋館になっていた。窓際を飾るのは純白のレースのカーテンだった。外から吹き込む風にはためかされ、まるで天女の羽衣のようだった。テーブルも昨日はただ配置し、テーブルクロスを敷いてあっただけだったけど、今ではどのテーブルの真ん中に花瓶が置かれ、色とりどりの花で飾られていた。もちろんどれも百円ショップで買ったものだ。それでもこうして見ると豪華な一品に見えるのはすごい。
「これであとは料理を提供するだけやね」
「はやてちゃんたちが作ったメイド服を着てね」
 まだどんなデザインか知らされてないけど、きっとはやてちゃんのことだから素敵なメイド服を作ってれたに違い。
「楽しみにしててな。みんなに気に入ってもらえるよう丹精込めて作ったんやから」
 ポンと胸を張るはやてちゃん。その様子は自信満々といった感じだった。注意してはやてちゃんの指を見るとあちらこちらに絆創膏が貼ってあるのを見かける。きっとすごく頑張ったんだ。
「うぅ……やっと終わったぁ」
 唸り声と共にやってきたのフェイトちゃんだった。また腰を押さえてる。昨日マッサージしたのに。
「なんやフェイトちゃん、腰痛か?」
「うん。アリサにこき使われ過ぎちゃったよ。今日なんて全部アリサの荷物持ちだったんだ」
「にゃはは……お疲れさま。また今日もマッサージしてあげるよ」
「ありがとう。なのは」
 腰を労わるようにさするフェイトちゃんに微笑むとフェイトちゃんは力なく笑い返してくれた。
「なんや『また』って。…………あ! ふーん。そういうことなんか。相変わらずやなぁ」
 何かに気付いたはやてちゃんはニタリと笑いながら私たち二人を見てきた。……何を言うのかある程度予想できてる自分がちょっと恨めしい。
「昨日はどっちの家でしたん?」
 ほらやっぱり。
 はやてちゃんはまるでハイエナのような目つきで私たちを交互に見てきた。
「昨日は私の家だよ。昨日は家に誰もいなかったんだ。それでなのはが家に泊まるって言って」
「ふぇ、フェイトちゃん!?」
 赤裸々に話し始めるフェイトちゃんに私は慌てた。いや隠すことでもないんだけど、今の会話の流れただと絶対に勘違いされかねない。
「ほう。なのはちゃんが泊まる、ねぇ~。で、どっちが下やったん?」
「はやてちゃんっ!!」
「え? 私もなのはも両方だよ。最初はなのはが乗ってしてくれたんだ」
 フェイトちゃん。目的語が抜けてるよ。ちゃんと言わないと勘違いしか起きないってば。
「あ、あのね、はやてちゃん! 昨日は」
「なのはちゃん。そこまで言わへんでええよ。これ以上は野暮やもんな。いやまさかフェイトちゃんがここまで話してくれるとは思わへんかったからつい」
「だって隠すようなことじゃないでしょ?」
「フェイトちゃん。少しお口にチャックしてようか?」
「え? どうして?」
「あはは。なのはちゃんも大変やね。天然さんな恋人を持つと」
「もう。人の気も知らないで!」
 ケタケタと笑うはやてちゃんに頬を膨らます私。フェイトちゃんだけは何もわかってないのか、首を傾げるだけだった。
「あ。フェイトちゃん。ちょっといい?」
「すずか? どうしたの?」
 三人で話をしているところにすずかちゃんがやってきた。汗を掻いているところを見るとすずかちゃんも作業に追われてるみたいだ。このあとアリサちゃんと買い出しに行くんだよね。確か。すごく大変そう。手伝ってあげられたらいいのに。
「先輩が呼んでたよ」
「先輩? どの?」
「一つ上の陸上部の先輩。なんだか渡したいものがあるって」
 その言葉にピクリと私は反応した。渡したいもの? それってラブレターとかじゃないよね?
「……そ、そうなんだ」
「今教室の外で待ってるよ」
「うん。わかった。行ってくる」
 そう言ってフェイトちゃんはすずかちゃんと共に廊下へと向かって行った。
「うぅ~……」
「なのはちゃん。あまり殺気立たへん方がええよ? このままやとせっかく綺麗にした喫茶店内がめちゃめちゃになる気がする」
「やだなぁ。はやてちゃん。私何もしないってば」
「せやったらレイジングハートに手をかけるなや」
「うっ」
 はやてちゃんに注意され、私は仕方なく手を離した。別に何もしないのに。ただ手を伸ばしただけなのに。
「天然さんでしかもモテるんやから困ったもんやね。なのはちゃんの恋人は」
「だけどこの関係をおおっぴらにするわけにもいかないし」
「バレてないと思ってるん?」
「クラスの中だけだと思ってるんだけど」
「アホか。フェイトちゃんとなのはちゃんがバカップルなのはもう周知の事実やで?」
 ……周知の事実ってどこまでなんだろう。もしかして学校中? そもそもバカップルって……。
「えとその……」
「少なくても一年生はみんな知ってるで。せやから私らの代でフェイトちゃん、もしくはなのはちゃんに告白してくるのは誰もおらへんやん」
「てことは先輩たちにはまだ知られてないってことだよね」
「せや。まーそれも時間の問題かもな」
「そ、そうだね……」
 そっか。先輩たちにはまだ知られてないんだ。だからああやってフェイトちゃんに会いに……。でもでも「フェイトちゃんに会いに来た」=「告白」ってわけでもないわけだし。もしかしたら私の勘違いってことも十分に考えられるわけでその……。
「――で、なんやった。フェイトちゃん?」
 考え事をしていたらいつの間にかフェイトちゃんは戻って来ていた。一通の手紙をその手に持って。
「……むぅ」
「ち、違うよっ、なのは! これは招待状だよ! 二年一組が演劇をやるみたいでその招待状。一番いい席のチケットを二枚貰ったんだ」
「ふーん」
「なのはぁ。機嫌損ねないでよ。私はなのはだけだから」
 両手を合わせてそう言ってくるフェイトちゃん。なんだか心が込められてるように思えない。
「なんやフェイトちゃんもヘタレさんやね。たったこれだけのことでなのはちゃんを不機嫌にさせてまうなんて」
「ヘタレなんかじゃない、私」
「せやったら堂々とイチャラブすればええやん。そしたらさっきみたいに誘われることもなくなるんとちゃう?」
 はやてちゃんの言葉がまったくフォローに聞こえない。明らかにこの状況を楽しんでるみたいに言ってるよね。
「堂々と……か」
「……いやフェイトちゃん。真剣に考えられても困るんやけど」
「ホントだよ。私としてはあまりこの関係をおおっぴらにしたくないし」
「なのは、どうして?」
「いや、どうしてって言われても」
 普通こういうのは隠しておきたいものなんだよ。フェイトちゃん。
「――こらぁっ! そこのバカ三人! 誰が休憩していいって言ったのよ! まだ仕事あるわよ!」
 教室に怒号と共に戻ってきたアリサちゃんはふー、ふーと荒い息を繰り返しながら私たちを睨みつけていた。
「なのはは調理室! フェイトはアタシと一緒に生徒会室! はやてはこのチラシを学校中に貼ってきて!」
 ポンポンと指示を出された私たちは文句を言う隙を与えられず、作業に駆り出された。そしてこの日も昨日と同じように最終下校時刻を過ぎるまでみんなで作業をすることとなった。


◆第三章 『恋人の暴走……?』


 九月十九日。聖祥大附属中学文化祭二日目。前日に行われた学校内だけのリハーサルとは打って変わって、この日は朝から大盛り上がりだった。校門には大きなアーチが来場者を迎え入れるように立っていて、校舎へと続く道の両端には、各学年の宣伝担当が待ち構え、クラスのビラを来る人一人ずつに手渡していた。その様子は入学した時に見た部活の勧誘のようだった。ビラを受け取る人の反応は様々なの。笑顔で受け取る人、少し煩わしそうに受け取る人、喜んで受け取る人、それぞれ違う反応を目にしながら私も同じようにビラを配っていた。
 ――メイド服を着て。
 はやてちゃんお手製のメイド服は本当にシンプルな作りだった。ネイビーブルーを基調としたワンピースの胸元にはギャザーがあしらわれていて、胸が大きくない人でもそれを感じさせない作りになっていた。これははやてちゃんに感謝すべきところなのかな?
「一年二組、メイド喫茶やってまーす!」
 強い日差しの下、フェイトちゃんと二人並んでビラを配っていく。ジロジロとものすごい視線を感じるも恥ずかしがらずに、遊びに来た人たちにすずかちゃん手作りのビラを配布していった。
 時刻は午前十時をちょっと過ぎたくらい。文化祭が始まったばかりにもかかわらず、学校内からは多くの賑わった声が聞こえてきた。
「すごい賑わいだね」
「どのクラスも素敵な出し物ばかりだからだよ。私たちのところも負けてるとは思ってないけど、他のクラスも見てまわりたい出し物ばかりだもん」
 昨日の校内リハーサルの時に半分ほどフェイトちゃんと回ったけど、やっぱり一日じゃ全部は回りきれなくて、今日もこの後、フリータイムになったらフェイトちゃんと見てまわる予定だ。メイド服姿で移動しなくちゃいけないのはちょっと残念だけど。
「――あら。フェイト。なのはさん。こんなところでもう会えるとは思ってなかったわ」
「あ。母さん。来てくれたんだ」
 リンディさんを筆頭にハラオウン家の人たちがやってきた。リンディさんを始め、クロノ君、エイミィさん、アルフはその手いっぱいにビラを持っている。
「おはようございます」
「わぁ。なのはちゃん、すっごく可愛いよ! 普段の制服姿も可愛いけど、やっぱりこっちは威力が違うよね! そう思わない。クロノ君?」
「あ、あぁ。そうだな……」
 クロノ君は私たちとは違う方向を向いて受け答えしていた。こっちを直視できないの?
「クロノ?」
「あー。クロノなら大丈夫だよ。フェイト。フェイトのあまりの可愛さに直視できないだけさ」
「そうなの? アルフ?」
「ああ。だって顔真っ赤だよ、クロノは」
「あ、アルフ……っ。余計なことは言わないでいい」
 そう言った時にちらりと見えたクロノ君の顔はアルフの言う通り真っ赤だった。きっと私よりもフェイトちゃんの方が可愛いって思ってるんだろうね。事実だけど、義兄がフェイトちゃんのことをそういう風に見るのはちょっといただけない。
「母さん。私たちのクラスは三階です。この時間だとアリサやはやてがいますよ」
「そう。それならまずはフェイトたちのクラスに行ってから他のクラスを回りましょうか」
「ぜひ楽しんでくださいね」
「ええ。もちろんよ。なのはさんもお仕事頑張ってね」
「はい!」
 ハラオウン家の人たちが校舎に入っていくのを見届けた後、私とフェイトちゃんはビラ配りをしながらクラスの宣伝を続けた。一時間ほどして交代要員であるクラスメイトの人と仕事を代わった私たちは一旦教室に戻ることにした。
「うわ……すごい行列……」
 教室に戻った私たちが見たのは入り口から伸びる長蛇の列だった。
「こんなに人気があるなんて思わなかったね」
 並んでいる人たちを見ながらスタッフ専用の出入り口にと入っていった私とフェイトちゃん。入ってすぐに簡易キッチンのその場所はすごい熱気だった。ホットプレートを使ってるというのもあるけど、みんな慌ただしく動いている。
「なのは! フェイト! 手伝いに来てくれたの!?」
「えっとそういうわけじゃなかったんだけど」
 私たちは金券を取りに来ただけなんだよね。本当は。だけどこの様子だと手伝った方がいいかも。
「フェイトちゃん」
「うん。私はいいよ」
 短いやり取りをした私たちはさっそく教室の方の手伝いに回った。フェイトちゃんがキッチンを担当し、私がアリサちゃん、はやてちゃんと一緒にフロアーを担当することになった。
「なのは。くれぐれも他の人に『ご主人様』なんて言わないでよ」
「ん。気をつける。接客はほどほどにするから。安心してね」
「頑張ってね、なのは」
「フェイトちゃんもだよ」
 そう言葉を交わした私は木製のお盆を手にフロアーへと出て行った。十二席用意したテーブルはすでにいっぱいだった。お客さんはやっぱりというか、予想通りというか。わりと年齢の高い男の人たちばかりだった。もちろんそれ以外のお客さんも来ているけど、割合的に男の人が多い。メイド喫茶をやるという時点でこうなることはわかりきってたことなんだけどね。
 教室内の壁にはお品書きが大きく書かれていた。それを見ながらお客さんが注文を頼み、私たちフロアーがキッチンに回し、教室内ですぐに出せるもの――クレープや飲み物はすぐに提供し、たこ焼きやお好み焼きは調理室へと連絡を回し、完成したらここまで運び提供するというのがこの教室の流れ。調理室で作り置きをすれば時間もかからないんだけど、それは衛生的に危険というのを生徒会役員からキツく言われているので、注文が入ってから作り始めることになっている。
「ご主人様。ここは写真撮影禁止です」
 少しいらだったアリサちゃんの声が聞こえる。そちらを見やると一眼レフを手にした男の人を注意している場面だった。
「注意書きにもあります通り、ここは写真撮影禁止なんです。ご理解ください」
 有無を言わさないアリサちゃんに押されたその人は泣く泣くといった感じでカメラをカバンに戻した。
 それからも時間を追うごとに増していくお客さんの数。私とフェイトちゃんだけじゃなくアリサちゃんやすずかちゃん、はやてちゃんはどこかに遊びに行くことも叶わないままずっと教室での作業に励んでいた。何度かクラスの子たちから交代するよ、と言ってくれたんだけど、それを私たちは断った。私やフェイトちゃんは昨日半分ほど遊んだから今日はもういいかなって二人で話し合っていて、アリサちゃんたちはクラスメイトたちにめいいっぱい遊んできてほしいという想いから申し出を断っていた。
「なのは。チーズ焼きを二番テーブル。お好み焼きを八番テーブルにお願い」
「はーい」
「すずか。調理室に連絡。チーズが四、お好み焼きが三、タコが二よ」
「了解です。はやてちゃん。連絡回してる間廊下の列の整理、お願い」
「任してや!」
 息の合った連係プレー、とまでは言い過ぎかもしれないけど、教室にいる私たち五人は次々に押し寄せるお客さんを捌いていった。翠屋での賑わいを遥かに凌駕している教室内。もうこれは大成功と言っても過言じゃない。
「なのはちゃん! オーダー取ってきて」
「うん。今行くよ! フェイトちゃん、お水を三人分お願い」
「わかった。すぐ用意するよ!」



   *  *  *



「あわわ……もう無理なの……」
「あはは……私もや。足も手も動かされへん」
「さすがにきつかったわね。アタシももうクタクタ」
 大繁盛を見せた私たちのクラスが落ち着いたのは文化祭開始から五時間後――三時のことだった。各クラスが営業可能時刻ギリギリまでお客さんが並ぶという状態で、食べられなかった人には申し訳程度にクレープを配ったりした。
 沈静化した教室内には五つの死体、もとい私たちがテーブルに突っ伏した状態で座っていた。ネイビーブルーのメイド服は完全に真っ黒になっている。体中が熱を持っていて、今すぐにでもシャワーに浴びたい。
「すずか。売り上げは……?」
「六万円ちょっと。大丈夫。黒字だよ」
「はぁ~……よかったぁ」
 安堵したため息とともにアリサちゃんはまた机に突っ伏した。
「お疲れさま、アリサちゃん」
「んー。もう疲れた。これ以上はさすがに動きたくないわ」
「ははは。同感や。これ以上はさすがに無理やって」
「でもこの後、体育館で後夜祭あるよね? 最優秀団体の発表とかライブとか」
『……行かない』
 フェイトちゃんが思い出したように告げるとアリサちゃんとはやてちゃんは揃って首を横に振った。私とすずかちゃんは苦笑する。二人とも本当にクタクタだもんね。私も二人の気持ちよくわかる。
「一般参加者は自由参加だけど、私たちは強制参加だよ? 最後あそこでHRやってお終いだもん」
「フェイト。アタシの代わりにアリサを名乗ることを許可するわ。出席確認の時、返事していいわよ」
「ダメだよ、そんなこと」
「いいじゃない。別に減るもんじゃないんだし」
「そういうわけじゃないってば」
 苦笑いを浮かべるフェイトちゃんは必死にアリサちゃんに動くように説得していた。本来ならすずかちゃんの役目なんだろうけど、すずかちゃんもだいぶグロッキーみたいで、座って微笑んでるのが精一杯みたいだった。

 ピンポンパンポン

『生徒会からの連絡です。これより聖祥大附属中学後夜祭を午後三時三十分より体育館で開催します。来場者の皆さんは参加自由ですが、生徒のみなさまは必ず来て下さい。繰り返します。このあと三時三十分から――――』
 生徒会からの連絡を聞いた私たち五人は揃って大きなため息を吐いた。フェイトちゃんもなんだかんだ言って動きたくないんだよね。
「えっとそれじゃそろそろ移動しよっか?」
 誰かが切り出さないと動きそうにもなかったので私が切り出した。するとフェイトちゃんはゆっくりと立ち上がる。次いではやてちゃんとすずかちゃんが立ち上がり、私も立ち上がるとアリサちゃんも已む無くといった様子で立ちあがった。重たい足を引きずるようにして体育館へと向かう私たち。体育館が近付くにつれて人通りが多くなっていった。
「あーもう。このまま来場者と偽って帰りたいんだけど」
「メイド服を着た来場者なんてファリンさんとノエルさんしか見てへんよ、私」
「二人いれば十分よ。この格好で学校外に出ても問題ないわ」
「何言うてんねん。教室内であれだけ『撮影は禁止です』って言うとったのアリサちゃんやん。もうみんなに覚えられてるで」
「……お腹が痛い」
「嘘言うなや」
「あ、クラクラしてきたかも」
「往生際が悪いでクラス委員兼実行委員。この後まだ仕事残ってるんやろ?」
 問い詰めるはやてちゃんに押されたアリサちゃんはコクリと力なく頷いた。本当に実行委員は大変なんだね。
「アリサちゃん、私が手伝ってあげるから元気出してね」
「わ、悪いわね、すずか。そういうつもりじゃなかったんだけど」
「うん。知ってる」
 アリサちゃんに肩を貸しながらすずかちゃんが微笑む。そこまで脱力してるの、と言いたくなるも私は口にしなかった。
 体育館に入るとすごい盛り上がりだった。指定された時間より数分遅れただけなのに、もうすでにそこは別世界だった。舞台の上に当てられている色とりどりのスポットライト。それを一身に受けているのは有志団体のバンドグループの人たち。今話題の曲を歌い続ける彼らの周りには多くの学生が手を振ったり、ジャンプしたりとライブ会場そのものだった。
「………………」
「え? 何!? 聞こえないよ!」
 アリサちゃんが私たちに何か言っているのだけはわかる。だけどこの歓声の中、私たちの声は一瞬でかき消されてしまう。私はオーダーを取る時に使ったメモ帳にペンを走らせた。メイド服でいたからこういう道具も入れっぱなしで来ちゃってたんだけど、持って来てて良かった。
 ――「聞こえないよ。どうしたの?」
 メモとペンを私とアリサちゃんはスラスラと文字を書いていった。
 ――「アタシとすずかは実行委員の仕事あるから一緒に入られない」
 そっか。そういえばさっきそう言ってたもんね。
 ――「私たち三人は後ろの方で座って見てるから、終わったら来てね」
 ――「わかったわ」
 それだけやり取りをするとアリサちゃんはすずかちゃんの手を引いて、舞台の脇へと移動し、扉を開けその中に入っていった。私たちはどこか空いているスペースを見つけるとそこに並んで座りライブを楽しんだり、ダンスを楽しんだりと後夜祭を満喫した。はやてちゃんも結構楽しんでるみたいでたまに曲に合わせて口ずさんでいた。
 後夜祭は時間が経つにつれて盛り上がりを増していった。私たちは座って見ているだけだったけど、体育館全体はものすごい熱気に包まれ、歓声が沸き、床が揺れていた。やがて有志団体の発表が終わると歓声も床の揺れもなくなった。その頃になると私はうつらうつらとしていて、舞台上で何が行われているのかすらわかってなかった。ここ数日の疲れがここで出ちゃったのか、きっと寝てたんだと思う。
『――私たちは大親友ですっ!!』
 そんな声が耳に少しだけ入ってくる。……あれ? 今なにしてるんだろう……。薄っすらと目を開けると会場は入ってきた時よりも静かになっていた。みんなは床に座って舞台を注視している。
「んん……あれ? フェイトちゃん?」
 隣にいるフェイトちゃんに聞こうとしたらさっきまで座っていたフェイトちゃんはそこにはいなかった。反対側に座ってるはやてちゃんは私と同じで小さく寝息を立ててる。
「フェイトちゃん……?」
 トイレに行ったのかな? 辺りを見回してもメイド服を着た金髪美人の恋人の姿は捉えられなかった。
「はやてちゃん。はやてちゃん!」
「むにゅ、むにゅ……あかんてヴィータ……そのアイスは私のやぁ」
「可愛い寝言はいいから起きてってば!」
 何度か揺らしても起きてくれない。というか狸寝入りなんじゃないかと疑ってしまう。狸だけにね。ってこれは失礼だね、はやてちゃんに。
 逡巡した私はもっとも効果的な起こし方に出た。はやてちゃんの耳元に口を寄せて、はやてちゃんだけに聞こえるように囁く。
(……シグナムさんが今、そこで脱いでるよ)
「シグナム……? あかんて公共の場で……それはあかん。絶対に許さへんよ」
 あれ? これで起きると思ったんだけど……なんで? どうして普通に寝言しか言わないの? こ、こうなったら……。
(ふぇ、フェイトちゃんのお、おっ)
「何やて!? フェイトちゃんのおっぱい!?」
 最後まで言わなかったのになぜか私が言いたいことを理解していたはやてちゃん。今ちょうど血管が一本ブチって言った。
「おはよう。はやてちゃん。いい夢見れたかな?」
「あ。なのは、ちゃん……なんや嘘やったんか……」
「聞こえてたってことだよね? これはあとでお仕置きだね」
 フェイトちゃんの胸を見ていいのは、触っていいのは私だけってこと、ちゃんとわからせないとだね。
「それはあとにしてっと。ねえ。フェイトちゃんがどこに行ったのか知らない?」
「フェイトちゃん? さっきまでなのはちゃんの隣にいたやん」
「今いないの」
「あれれ? おっかしいなぁ。お手洗いとちゃう?」
「一言も声かけられなかったの」
「珍しいなぁ。なのはちゃんに何も言わずにフェイトちゃんがどこかに行くなんて」
 その通りなの。いつもなら何か一言言ってくれるのに。どこに行っちゃったんだろう。
 辺りをキョロキョロと見回してもやっぱり見つからない。仕方なく舞台の方を眺めた。舞台では今、『仲良しフェスティバル』という題の催し物が行われていた。説明も聞いてなければ、何をしていたのかも見ていない私は疑問符しか浮かばない。ただ今舞台に立っている人たちを見ている限りでは、自分たちがどれだけ仲良しなのかをアピールしてるようだった。手を繋いだりだとか、お互いのいいところを言い合ったりとすごく微笑ましい。私もフェイトちゃんのいいところなら何時間でも話せる自信ある。
『それでは次で最後になります。エントリーNO.28、一年二組、フェイト・T・ハラオウンさんと高町なのはさんです』
「……はい?」
 私とフェイトちゃん……? 脳死状態に陥ったかのように思考が停止してしまった私。呆然と舞台を眺めていると袖裏かあらネイビーブルーのメイド服とスポットライトに当てられてきらきらと輝く金色の長い髪をした人がすっと現われた。右手にマイクを持っていて、舞台中央に立つと会場全体を見まわし始める。
「フェ……ト、ちゃん?」
 どうしようもないくらい掠れた声が口をついで出た。まだ現実を受け入れられなくてじっと舞台に立つフェイトちゃんを凝視する。
「な、なのはちゃん……フェイトちゃん、見つかったやん。あ、あは、あははは……」
 乾いた笑いを浮かべるはやてちゃん。その表情は引きつりまくりだった。

 キィィ……ィン

 マイクがオンになったみたいで、体育館に設置されているスピーカーから高い音が響き渡った。
「な、何がどうなって……」
 座ったままの格好の私はただただ舞台上に立つ恋人を見つめているだけだった。意味がわからない。どうしてあんなところフェイトちゃんが……?
『あれ? これマイク入ってるのかな?』
 拡声された恋人の声がスピーカーを通じて会場全体に響き渡った。その声でうっとりとしている勘違いさんが私の周りに何人も見つけた。確かにフェイトちゃんの声でクラッとくるのはわかる。わかるけど、あからさまに頬を染めないで! フェイトちゃんは私の――――
『なのは? 聞こえる?』
「なっ!?」
 いきなり名前を呼ばれたことに私はうろたえてしまい、大きな声を上げて反応してしまった。するとこっちに数多の視線が集まった。今のこの一瞬で私が「高町なのは」だというのが全校生徒にも来場者の人たちにもバレてしまった。……不覚なの。
「なのはちゃん。フェイトちゃん、呼んでるで?」
 さっきまで乾いた笑いを浮かべていたはやてちゃんは今はもう平然とした顔をしていた。何食わぬ顔して私の背中をポンポンと叩く。つまりあれなのかな? 私にフェイトちゃんのところに行けって言ってるのかな?
「はやてちゃん……。これは一大事なんだよ?」
「せやって私は何も聞かされてへんもん」
「聞かされてないって……」
『なのは』
「っ!?」
 また名前を呼ばれた。拡声された恋人の声が耳を刺激し、脳を揺さぶる。私はビクリと肩を震わせてしまった。
「早く行かへんともっと大変のことになるんとちゃう? 予想やと何度もなのはちゃんの名前を呼ぶ、かな? それかフェイトちゃんが待ちきれなくて迎えに来るか。うん。そっちかもしれへん」
 ぱぁっと笑顔を私に向けてくれるはやてちゃん。そうなればいいな、と明らかにこの状況を楽しんでるようだった。視線をはやてちゃんから舞台にいるフェイトちゃんに向けると真っ直ぐにこっちを向いていた。真紅の視線が「なのは。こっちに来てよ」と言っているのがわかる。
「フェイトちゃんの……ばか」
 大勢の前でいったい何をするつもりなの? あそこにいるってことは『仲良しフェスティバル』に参加してるってことだろうけど、まさか変なこと言ったりしないよね?
 いろいろなことを考えながら私は立ち上がった。すると一斉に視線が私に向けられる。数多の視線を体全体で感じつつ、私は静まり返った体育館を舞台に向かって一歩、一歩ゆっくりと歩き出した。今この会場は嵐の前の海そのものだ。きっと私がフェイトちゃんの元に辿りついた時に歓声があがる。それだけは自身を持って言える。
 私が舞台に近づいていくごとに座っている生徒たちが道を開けてくれた。……モーゼが海を割ったのってきっとこんな感じなんだろうね。苦笑いを浮かべながら小さく頭を下げる。舞台に通じる木製の階段まで辿りつくとフェイトちゃんは私ににこりと笑いかけてくれた。対して私は頬を膨らます。
「いったいどういうつもりなの? こんな大勢の前で」
「やっぱり怒る?」
「怒るよ。私何も聞かされてないのにこんなこと。いつエントリーしたの?」
 鋭い口調で言葉を交わしながら、階段を一段ずつ上がっていた。最上段まで来るとフェイトちゃんが申し訳なさそうに笑っていて、私の方へと手を差し伸べていた。瞬間、堤防が決壊したように会場の至るところから黄色い悲鳴が沸き起こった。フェイトちゃんの一動が王子様のように見えたからだと思う。私も実際、そんな風に思ってしまったくらいだもん。ただ衣装がメイド服なのでかっこいい、とは言い難い。
 私の手を取るとフェイトちゃんは小さくあやまりながら「ついさっき」と質問に答えてくれた。
「よく受け付けてくれたね」
「たぶん私だからじゃないかな?」
「フェイトちゃんって自意識過剰だったっけ?」
「そ、そういうわけじゃないんだっ。その受付を担当してた子が一学期の時に告白してくれた子でその……」
「む」
 嫌なことを思い出したので握られている手をきつく握った。するとフェイトちゃんは顔をしかめる。
「ご、ごめん。なのは」
 あやまるくらいなら最初からこんなことしてほしくなかったよ。
「その初めての文化祭だし、なのはと思い出が作りたかったんだ」
「それは嬉しいけど、何もこんな人前に立つようなことをしなくてもよくない? 私、すごく恥ずかしいよ」
「ごめん、ごめん。えっとその……私のわがままだと思って付き合ってほしいんだ。いい?」
「ここまで来たのに今さらノーなんて言えないよ」
「ありがとう。なのは。あ……、もう時間ないや」
 フェイトちゃんは体育館に取り付けられている時計を見て小さく肩を落とした。
「どうしたの?」
「ここに立てるのは一組三分なんだ。もうあと一分くらいしかない」
「そ、そうだったんだ、ごめんね」
「ううん。大丈夫。一分もあれば私となのはがどれだけ仲良しなのかみんなにわかってもらえるから」
「そ、そう」
 自信満々に言うフェイトちゃんに一抹の不安を抱えながらも私は体を会場の方に向けた。会場から集まる様々な視線をひしひしと感じながらその時を待つ。

 キィィ……ィィン

 マイクがオンになった。フェイトちゃんは私を抱き寄せるマイクに声を当てた。
『私となのはは……これからもずっと一緒です』
 会場に響いたその声に呼応するかのように黄色い声がまた劈き始める。私は煩わしいと思いながらも今フェイトちゃんが言ったことを反芻していた。
 ――『ずっと一緒にいる』
 はっきり言われて嬉しくないわけがない。これからもフェイトちゃんは私といてくれるんだと思うと胸が暖かくなる。……ん? というよりこれって聞き方によって意味が変わるんじゃ……。
 もしかしてプロポーズ……? いやまさか……ね?
「あの……ふぇ、フェイトちゃ」
「なのは。みんなの前でこんなことするのこれっきりだから許してね」
「ふぇ?」
 顔を真っ赤にしている私と同じように顔が赤いフェイトちゃんはさっと腕を腰に伸ばすと一気に私を抱き寄せた。何もできずにいる私の顎にフェイトちゃんの手が添えられ、くいっと角度を変えられる。これって……まさかっ!?
 気付いた時、私の耳に入ってきたのはけたたましいくらいに騒ぐ会場の人たちの歓声、悲鳴だった。視界いっぱいに広がる真っ赤な顔と同じくらい真っ赤な瞳は今、すごく嬉しそうに輝いていた。
 そんなフェイトちゃんに怒る気力も抵抗する気力もそがれた私は、恥ずかしいけどじっと触れ合わせた唇の感触を楽しんでいた。


◆エピローグ 『祭りはまだ終わらない』


 劇的な終わり方をした文化祭が――私とフェイトちゃんのキスで締めくくってしまった文化祭が終わってから数日後の平日。あれだけ綺麗に装飾した教室は喫茶店の名残を残さないくらいもと通りに戻っていた。授業が始まっているというのにもかかわらず、学校内の話題はあのことだった。
「……フェイトちゃんのバカ。バカ。バカ」
「だ、だって……はやてが」
「ちょ!? そこ私のせいにするのおかしない? あれはフェイトちゃんが勝手にやったんやろ!?」
 昼食時の私たちの会話ですらあの時の話題で持ちきりだった。いつもならホールでご飯を食べてるんだけど、今日は教室。ううん。ほとぼりが冷めるまで当分教室でご飯を食べるはめになっちゃった。一歩教室を出るだけで、すぐに私は他のクラスの子、先輩、先生に囲まれてしまう。羨望の眼差しで見られたり、そうじゃない目で見られたりとですごく大変な思いをしてる。それはフェイトちゃんも一緒なはずなのに。
「アンタたちがそこまで見せつけたかったなんて知らなかったわ。ごちそうさま」
「アリサちゃーん。私はそんなつもりなかったんだよぉ」
「勝手に言ってなさいよ」
「うぅ……フェイトちゃんのバカ!」
「な、なのは! 聞いてよ。これには理由があって。はやてがみんなの前でなのはとの関係を」
「それでキスしたの!? もう告白はしてこないだろうけど、私学校内フェイトちゃんと歩けないよ」
 これじゃ本当にただのバカップルにしか見えない。フェイトちゃんが言ってることもわからなくはないんだけど、でも他にも方法が……。
「なのはちゃん。フェイトちゃん。この間の文化祭のことが校内新聞になってたよ……」
 神妙な面持ちのすずかちゃんに、私はものすごく嫌な予感がした。すずかちゃんはその新聞を机の上にゆっくりと広げる。すると第一面を飾っていたのは、私とフェイトちゃんの黒歴史――キスしている場面だった。
「うわぁぁっ!?」
「これはもう永久保存版ね。ご愁傷様。なのは、フェイト」
「もう! フェイトちゃんのバカぁ!」
「な、なのはっ。ご、ごめんっ!」
 大きな声を上げてフェイトちゃんを罵倒する私。だけど内心ちょっと嬉しかったりもしていた。表紙を飾ってしまっている私たちのことをその記事はこう書いていたからだ。
 ――「誰もが認めるお似合いの二人。なのはとフェイト」
 と。

 《あとがき》

 初めましての方は、初めまして。
 『青い空に魅入られて』の管理人、星屑の空です。
 そしてそうでない方は、こんにちは、星屑の空です。
 このたびはコピー本をお手に取ってくださり、また読んでくださりありがとうございます。まだなのフェイSSを書き始めて一年とド素人のくせにこのようなものを作ってしまい本当に申し訳ありません(汗
 実は今回のイベントは『流るる、雲。』様の売り子をやらせていただくだけであって、コピー本を出す予定はなかったんです。ですが、先日サイトの方でアンケートを取ったところ、予想以上に「コピー本読みたい」というのに票が入ったので、
「頑張っちゃうか!」という意気込みで作りました。
 安直ですね。本当に申し訳ないです、
 自分で言うのもあれなのですが、正直、本を出すなんてまだまだ早い(苦笑
 それでもこうしてお手に取ってくださった方がおられると思うと嬉しくあります。
 そんな皆様に少しでもなのフェイ分を補給してもらえれば幸いです。


 えっと作品の方なんですけど……この「文化祭」のお話は一年前、星屑が『青い空に魅入られて』を開設して、三つ目くらいに書いていたSSをあらためて書き直したものです。
 サイトの方で掲載しなかったのは、ちょうど同じ時期に長編の連載をやりたいな、と思ったからですね。言わばこの作品は一年越しに完成したということです。
 星屑としては感慨深い思いであります。
 ただのバカップルにしか見えない。
 イチャラブし過ぎ。
 などなど思っていただければ嬉しいです。
 さて。あとがきというのは他に何を書けばいいんでしょうか? このくらいでいいのかな?(苦笑

 ではあらためまして、でいいですよね?
 このコピー本をお手に取ってくださった方に気に入ってもらえるような作品になっていれば幸いです。
 そして次またコピー本を出す機会がありましたら、こうしてまたお手に取ってくださればと思います。
 だいぶ図々しいですね(汗
 それではこの辺で失礼します。
 最後に心よりの感謝を。
 本当にありがとうございました!












余った……orz






初秋の祭りを彩る二人


このコピー本に関する著作権は、『青い空に魅入られて』の権利者に帰属しており、
許可のない無断複写は法律上の例外を除き禁止されております。

問合せ先
星屑の空 『青い空に魅入られて』
     メールアドレス:innocentstarter-0315@castle.ocn.ne.jp
   ホームページ:http://stardust0sky.blog63.fc2.com/

© 青い空に魅入られて 2010
2010年9月19日 発行



 ここまでお付き合いくださりありがとうございました。これ「余ったorz」ってありますが、丸々一ページ余白ができちゃったんですよね(苦笑
 またこんな風にぼちぼちと作品投下できたらいいな……
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